吃音治療で20年来のどもりがほぼ消えたことについて


更新日:2016年12月27日

ぼくは、物心ついた頃からつい最近まで、人前で話すのを極端に避けてきた。
吃音者だったからだ。

でも吃音治療がキッカケで、吃音の大部分が消え、人と話すのが本当に楽になり、こんなこともあるのかという意味で誰かに伝えてみたくなった。
長文なので、吃音治療に興味がある方は読んでみてください。

ぼくの黒歴史。吃音に苦しめられた小学生~

ぼくは小学校に入った頃、近所の友達と毎日遊び歩くような男児だった。
野球やドッチボール、サッカーやけいどろ(警官と泥棒の鬼ごっこ)で日が暮れても遊び続け、よく母親に怒られていた。

けど小学4年生くらいから吃音で悩むようになる。
友達に笑われ、マネされ、バカにされるようになったからだ。
気にしない素振りをしていたが、顔が真っ赤になってしまうため動揺しているのはバレバレだったと思う。
時代遅れな「お、お、おにぎりが、た、たべたいんだなぁ」というモノマネを休み時間のたびに何度も何度もしつこく繰り返されて、山下清を恨んだこともある。

徐々に人と接することが苦痛になっていき、中学や高校生になると人に接することがほとんど無くなっていた。
だから今の友達の数は、片手で数えても5本余ってしまう。

学生時代の思い出と言えば、教科書の朗読、劇の発表会、日直のあいさつ、自己紹介といったトラウマになった辛い場面ばかりだ。
楽しかった思い出は、小学4年生で途切れている。

けど、ぼくは大人になれば吃音が治ると思っていた。

両親や祖父母に「落ち着いてゆっくり話せばどもらない」と刷り込まれて生きてきたため、ぼくが大人になって落ち付くようになれば自然と治るものだと思っていたからだ。

吃音者の就職

ぼくは高校を卒業して、車で50分ほどの距離にある工場に就職できた。
面接は、顔を真っ赤にして大汗をかいて、盛大にどもってしまったが、工場の社長が高校のOBで毎年卒業生を採ってくれていたため、かろうじてその枠に入れた感じだ。

ぼくは入社して仕事に打ち込んだ。
本当にがんばった。
生まれて初めてがんばった。
朝一番に出社して仕事を始め、夜は教えてもらったことを練習をし、家に帰り本を読み仕事を覚えていった。

頑張りのモチベーションは、吃音者のぼくを採用してくれた社長を裏切れない、という思いが強かった。

でも実はそれ以外にも理由があった。

電話や朝礼、ミーティング中の発言から逃げ回っている罪悪感・・。
工場勤務であっても、担当部署にかかってくる電話を取ったり、朝礼で前に立ちあいさつをしたり、ミーティングでで発言したり、話す機会があったからだ。
ぼくはそれらに何だかんだ理由を付けて逃げ回っていた。

それでも黙々と仕事をこなし、スキルを身に付け、資格をとり、徐々に上司や先輩からの信頼を得られるようになっていた。

吃音者が昇進?

入社して5年目のこと。
ぼくは昇進した。
現場の係長という立場だ。
同期の中では一番早かった。
ぼくはこれまでの頑張りが認められたことを喜んだ。

その夜、当時流行っていたmixiのコミュニティで昇進の報告すると、皆が一緒に喜んでくれた。
ほんとうにうれしかった。

初めて人生の晴れ舞台に立った気がした。

この時がぼくの絶頂期だったのかもしれない。

大人になったら吃音が治る・・・?

ちょっと話しを戻して、就職して少し経った頃。
ちょうど世間にはインターネットが普及していた。
ぼくもその流行に乗りパソコンを買い、ASDLを契約する。

文字だけで完結するインターネットの世界は、喋れないぼくにとって夢のような場所だった。

インターネットの中には、自分と同じ悩みを抱えた仲間が沢山いる。
ぼくはチャットや掲示板、そしてmixiに顔をだしては、仲間たちと傷を舐めあった。
誰にも相談できなかった吃音の悩みが、ここでは気軽に話せて共感してくれ、ぼくのがんばりを認めてくれる。
ぼくがインターネットにのめりこむのに時間はかからなかった。

しかしぼくは、日々大きくなっていくある不安を隠しきれなくなっていた。

「大人になっても吃音が治らない!?」

mixiの吃音者コミュニティ中には、10代や20代の若い人たちだけではなく、40代や50代という人たちもいた。

そして78歳の人もいた。
そのおじいちゃんは吃音者だった。

78歳になっても吃音に苦しんでいた。

そしてみんなが口々に言う。

「吃音は治らない」

それが現実かもしれない。
しかし、その現実を到底受け入れることができず「ぼくは大丈夫。いつか治る」と、根拠もない希望にすがり、心の不安を隠しながら生きていくことになる。

人生の転落?地獄と恐怖・・

ぼくの仕事は係長に昇進して大きく変わった。
取引先への電話連絡、朝礼でのあいさつ、ミーティングの司会進行。

ぼくは仕事の引き継ぎで、前任者の段取りを見ながら「これはやばい・・」と思った。
その思いは現実のものとなり、係長としての人生がスタートしたまさにその日、ぼくは地獄に落ちることになる。

「・・・もっもっぉぉーー・・・・しもし。わわ、わたくし、、かかかぶ、かぶしきがいしゃ・・・ぁぁあっぁっぁ・・」

取引先に電話をかけたぼくは盛大にどもった。

ガヤガヤと騒がしかったフロアの中が、一瞬でシーンっと静まり返った。
そこにいる全員がぼくに注目しているを感じた。
ぼくの焦りはさらに大きくなる。

だが社名が言えない・・・。
自分の名前すら言えない・・・。
電話を切ることもできない・・・。
なんとか声を出そうとゆがむ顔・・・。
止まらない汗・・・。

係長に昇進し、この地獄が毎日のように続いた。

ぼくは電話の呼び出し音が鳴るたびに恐怖し体が震え、息が止まるようになっていた。

35年後の定年まで・・・

この頃のぼくは、毎日の電話業務でヘトヘトに疲れきっていた。
死にたいと思うようになり、精神的にもヤバい時期だった。

以前の仕事に戻してもらうことや、転職も考えるようになっていた。
しかし考えれば考えるほど「人と話さない仕事なんてこの世にはほとんど無い」という結論に行きつくことになる。
だから降格しようが、転職しようが、それは問題の先送りに過ぎない。
いずれまた吃音で悩むことになる。

この地獄のような日々を定年までの35年も続ける人生に何の意味があるのだろう?

ぼくは吃音を治さなければ、この先の人生は無いと考え始めていた。

希望をつなぐだけの吃音治療・・・

ぼくは吃音治療を始めた。
都内にある言葉の教室に通ったのだ。
そこは、呼吸を改善し吃音を治すという手法で有名だった。
ここには8ヶ月通うとこになる。
しかし全くと言っていいほど効果が無いまま、卒業して放り出された。

それからいくつかの通信教育に手を出した。
何をやっても効果が無いのは、始めから分かっている。
それでもぼくが手を出し続けたのは「これで治るかもしれない」という希望だけが、生きる支えになっていたからだ。

ぼくの毎日はどもる恐怖と終わりの見えない絶望しかなかった。
その悪夢を忘れさせてくれる麻薬のような希望だったのかもしれない。
この頃のぼくは、偽りの希望で絶望とのバランスを取り続ける、綱渡りのような人生を送っていた。

mixiからの希望

人生に絶望しながらも、ぼくはかろうじて生きていた。
しかし続けていた吃音治療には、希望を感じられなくなっていた。
誰かに「もう楽になってもいいんだよ」って言われたら、ためらわずそうしただろう。

ある日いつもより少し早く帰宅し、近所のスーパーで買った2割引きの惣菜を食べていたとき、忘れかけていたmixiのことをふと思い出した。
約1年ぶりにログインする。
ただ以前と比べて人が様変わりしているらしく、ぼくが仲良くしていた人たちはほとんどいなかった。

どこか他人の家のような居心地の悪さを感じ、ぼくは画面を閉じようとした。

しかしそのとき懐かしい名前を見つけ手が止まる。

その名前は、ぼくより3歳年上で兄貴分的な存在だった人で、なにかとぼくのことを気にかけてくれる人の名だった。
ぼくが係長に昇進した時に一番喜んでくれたのも彼だった。

その彼が6か月前に書き込んだレスを見つけたのだ。

「吃音もだいぶ良くなってきました」

彼は、吃音改善のための脳トレーニングをしているらしく、その効果がでているようだった。

彼の近況を見るだけで、何カ月かぶりに心が和らいだ気がする。
彼もがんばって生きているんだ・・・。

ぼくは彼のやっている吃音治療トレーニングに申し込むことにした。

これで駄目だったらそのときは・・・。

高すぎたトレーニング教材

彼の吃音を改善したのは「MRM」という脳医学に基づいたトレーニングだった。
https://www.infotop.jp/

ぼくはこれまで呼吸が吃音の原因だと思っていたため、呼吸法の治療しかしてこなかった。
でも呼吸法で吃音を改善する方法は、1980年代ごろの古い考え方。
今はアメリカやカナダを中心に脳医学を取り入れたトレーニングが吃音改善に大きな効果を出している。

ただこのMRMというトレーニングには大きな難点があった。
値段が高いのだ。

ぼくは一人暮らしをしていたこともあり、お金に余裕が無かった。

これを買ってしまえば、給料日までの5日間何も食べれないかもしれない。
けど買わなければ、明日からの辛い仕事を耐えきれない・・・。

結局5時間悩んだ末、夜中の3時にネットでトレーニング教材を購入した。

その値段29,700円。
当時のぼくには途方もなく値段の高いトレーニング教材だった。
MRMの公式通販サイト

どんなトレーニングなのか

このトレーニングの目的はただ一つ。
脳にインプットされた吃音を消し去ること。
脳から吃音を消せれば、自然とどもりも消えていく。

成人になると、脳が吃音を強烈にインプットしているため、消し去るのは不可能だと言われていた。
しかし脳医学が発達した現在は、潜在意識レベルで脳に作用すれば、吃音を消し去るとこが可能になっているようだ。

その方法がこのトレーニングには詰まっていた。

やることは簡単。
1日20分~30分くらい動画を見てイメージするだけ。
これを毎日毎日コツコツと休まず続ける。

トレーニングの効果・・・

トレーニングの効果は笑っちゃうくらいすぐに出た。
始めて4日目にぼくはある変化を感じた。

地獄のような電話業務が少しだけ楽になったのだ。

いつもは話始めの社名が言えずに、
「あぁ、・・かぁっかっかっ・・かぁぁ~ぶしきがいしゃ・・」
と、声を裏返しながら盛大にどもっていたのだが、

「あっ、かっかぶしきがいしゃ」
と、少しだけスッとスムーズに社名がでるようになった。

相変わらずどもってはいたが、ぼくにとっては大きな変化だった。

なるべく長くこの状態が続いてほしい・・・。

ぼくは腫物を触るように、そっとそっと慎重に自身の吃音を扱った。

しかしこのバランスはすぐに崩れることになる。

2週間経ったころ、ぼくは明らかに変わっていた。
スムーズに電話ができるようになったのだ。

どもることも無く、電話をかけ要件を伝えることができる。
実際には少しどもっていたが、見た目ではスラスラと普通に喋ていた。

周りの同僚たちもその変化に気づいたようで、コソコソ噂をするのが聞こえた。

それもそうだろう。
毎日のように声を裏返しながら電話をしては、職場を微妙な空気に包んでいた問題児が急に普通になったのだから。

吃音がない世界

ぼくは積極的になった。
以前は電話をするのが嫌で、なるべく仕事が回ってこないように、誰かがやってくれるのを待つ消極的な人間だった。
吃音が消えてからは、電話から逃げる必要がなくなり、ドンドン仕事を引き受けるようになった。
工場の外に出て客先に行き、商談やプレゼンをすることが多くなった。
ゆるキャラとのタイアップ企画なんかもやらせてらった。

仕事が楽しくなり、自然と結果も付いてきた。

意外とこういう仕事が向いているのかもしれない。
もともと人前に出て仕事をしたいという思いは持っていたが、いつも吃音が邪魔をしていた。

でも今ぼくは、その呪縛から解放された自由な世界に立っている。

欲を言えばもっと若い頃にこのトレーニングに出会えていれば、友達が作れていたかもなんて思ったり。

トレーニングをやってみたい人に

このトレーニングは、ネット通販で買える。
パソコンやスマホで申し込め、買ってすぐに教材がダウンロードできた。
スマホの中で全てが済むため、家族や他人に知られる心配もない。
郵送で教材を待つ必要もなく、お金を払えばすぐにトレーニングを始められた。

ネックになるのはその値段だろう。
29,700円もの大金はなかなか出せない。
とくに学生や新社会人は高くてなかなか買えないのではないだろうか。

ただぼくにはその値段以上の価値があった。
「吃音が消えた」というだけで、人生を買ったようなものだからだ。

ぼくと同じように電話の呼び出し音に恐怖し、人前で話すことに怯え、学校や会社に行くのが嫌で、吃音に悩み苦しんでいる人は試してみてほしい。
一日20分のトレーニングを続けられる忍耐と意志がある人向けかもしれないけど、
世界が変わると思う。
MRMの公式サイト
https://www.infotop.jp